はたまた虚無か

半分は(多分)嘘です。もう半分の半分も(恐らく)嘘です。あとの残りは、おまかせします。(主食はゆでたまごです

第4夜 花火の男

手持ちの動画の中でも選抜組に、印として「★」とかつけたりしますよね。ついでに簡単なコメントとかつけたりして。星の巡りと共に自分の好みも移り変わっていったりして。

 

以下、フィクションです。

 

「全然美味しくなさそうに食べるね」

彼との1日は、必ずこの一言と共に思い出される。何気なく放たれた一言ではあるけれど、それは今でも時折リフレインされる程度の圧を持って、横浜中華街のチャーハンと一緒に僕の体内に取り込まれたようである。口ではそんなことを言っていたくせに、その不満気に見えたはずの食事風景を、彼は写真に撮っていたからまた不思議だ。(残念ながらその写真を僕は見なかったので、自分がどんな顔をしながら食事しているのか、未だに分からない。)

 

2つ年上で、音楽が好きな人だったはずなのだが、事前にやりとりしていたメッセージとは裏腹に、実際会った際には全くと言っていいほどその話をしなかった。まあ、プロフィールに書くほどの趣味であるくらいなのだ。初対面特有の、手の内を探り合うような間柄に流れる空気では、確かにふさわしくない話題だったのかもしれない。(それでも花火大会の開会を待つ間、彼のiPhoneは大体のリクエストに応えてくれた。)

 

経験者ならわかって頂けるだろう。横浜湾岸でのデートでは、気づいたらかなりの距離を歩くことになる。それだけの長い時間、肩を並べていれば、何かの気の迷いでちょっかいを出したくもなるのかも知れない。実際、彼からいたずらっぽく手を繋いでくることは何度もあったし、もちろん僕はその回数だけそれを(今思えば)半分残念に思いながら振り払っていた。

 

その延長での花火大会である。それも横浜みなとみらいでの。

二人がどうにもならずに帰る方が不自然な雰囲気がそこにはあったはずなのだが、結局その日は、舞い上がった彼の、これまたイタズラっぽいキスの注文を断ったところで、大桟橋を後にした。

勢いにまかせて1回くらいしちゃえば良かったなあ、などという後悔が無いといえば嘘になる。この時、僕がもう少し子供であれば良かったのか、もう少し大人であれば良かったのか、その正解も、未だに分からない。