はたまた虚無か

半分は(多分)嘘です。もう半分の半分も(恐らく)嘘です。あとの残りは、おまかせします。(主食はゆでたまごです

第5夜 クリスマス映画の男

この時間に帰ってきて、まずやることがこの血迷いブログって、終わってますねー。

はてなぶろぐとは上手く言ったもので、対象となる層が一番はてなですもんね。

 

以下、フィクションです。

 

赤、桃、緑なるものまで出てきた某アプリ群も、初めはみんな「黄色」から広まっていった。都心、地方問わずアプリでの出会いがスタンダードとなった今では単なる外人図鑑と成り果てたこのツールも、当時はそれなりに賑わっていた。(他に選択肢が無かったからなのだが。)

写真やボタンを極限まで排除し、およそ脳では処理しきれない程のファーストインプレッション合戦が繰り広げられる中、近所に住む典型的なアジアのイケメン風30代のお眼鏡にかない、その日のうちに彼の部屋へ遊びに行くことになった。

 

目的地は本当に近所のマンション地帯で、自転車がメインの移動手段であった僕でも5分少しで辿りつけた。緊張しながらも部屋につけば、いかにも男の一人暮らし的なシンプルなインテリアに囲まれたソファに、部屋着の彼が紳士的に向かえ入れてくれた。

出身はマレーシアであること。向こうの大学で化学を学んでいたこと。そして今は日本で定職に就いていること。そんな事をひとしきり聞いた後、彼が観ようと予定していた映画を一緒に観ることになった。(実際はもっと詳細に身の上を話してくれていたはずなのだが、僕の英語力ではこれ以上聞き取れなかった。)

 

映画の内容は、子どもと二人で暮らす父親宛てに、クリスマスのラジオ放送を通じて届けられる亡き妻からのメッセージ、的な所謂感動ストーリーものであったと思う。

その時生まれて初めて英語字幕で洋画を観たのだけれど、隣りに異国の男前がいるシチュエーションも手伝って、特別に普段と違ったことをする感覚もなく、無事にエンディングを迎える事ができた。(そう、心身ともに”無事に”観終わってしまったのだ。)

 

深夜からのバイトまでまだ時間はあったものの、映画鑑賞という一大イベントを終えた我々にとっての選択肢はそうあるはずもなく、まるで当初から映画を観る約束で訪問したかのような流れで、彼に一言礼を告げて僕は部屋を出た。

帰りがけ、ふと開いた「黄色」のそれには、受信メッセージを示す1の数字が表示されていた。受信時間は、その時からほんの3分ほど前。

 

”僕は恥ずかしがり屋だから言えなかったけど、君ともっと一緒に居たかった”

 

そう書いてあるように見えた英語は、何度確認しても、やはりそう書いてあった。

普段の何倍も推敲を重ねながら、部屋に戻ってもいいか確認するメッセージをやっと送信したのは、彼の居る5階へと向かって上昇するエレベータの中での出来事であった。