第9夜 はじめましての男
知りません。こんなブログの行く末なんて知りません。
それでは今夜もブランクを感じさせない一幕を。
(面白さの責任とかもやっぱり知りませんよ)
以下、フィクションです。
爽やかな土曜日の朝だ。
こんな薄暗い地下空間ではなく、外で日差しを浴びていれば誰もがそう思えるような、
素晴らしい休日だっただろう。そんな日和、間違っても太陽の下なんて歩けないような恰好、下着一枚でタバコをふかしていたところだった。
昨夜の喧騒と打って変わった静けさに余韻を感じながら、妙に冴えた頭で行うのは、
残った”物好き”達との低俗な駆け引きであり、また自分の欲望との駆け引きでもある。
「あと30分誰も来なかったら帰ろう」
そんな時、甲高い鐘の音が鳴った。(今時あんな音を聞くのはここか商店街の福引くらいではないだろうか)
白いTシャツ、スエット素材の短パン、
あとはとにかく背が高く色白で、ハーフかクォーターのような雰囲気の人だった。
水を打ったような静寂に変わりはないのだが、それでもその場の士気が高まるのを誰もが感じていたと思う。
しかし、彼がハーフでもクォーターでも無いことに、僕はなんとなく予想がついた。
着ていたTシャツと同じ色の白いボクサーで店内を一回りした彼は、
手を出す事も出される事もなく、僕の立つ通路へと、迷い込むようにやってきた。
そのまま、催眠術でもかけられたかのような足取りの彼を、個室へ引き入れ、鍵をかける。
〜〜〜〜〜
「久しぶりだったから。。」
そんな事をいう彼ではあったが、しっかりと感じてくれていたし、ちゃっかり行くとこまでいってしまった。そんな僕も、その鼻にかかったような低い声を聞くにつけ、やはり聞きおぼえのある声だなあと思いつつ、しかしその声で聞いたことはない言葉をいくつも耳元に感じ、征服感にも似た高揚を憶えたのは確かだった。
いつきたの、よくくるんですか、鍛えてるね、どんな人がタイプなんです。
そんな他愛もない話を少しした後、お互いにシャワーを浴びた。
その後は白いTシャツで隠れる彼の背中を見送りつつ、
僕も退店の鐘を鳴らした。
新宿駅周辺で連日交わされる初対面の挨拶。
その量の何倍の出会いがあの地下空間で”消費”されるのだろうか。
欲望のやり場を宛てなく求める彼ら、その視線が交わる時、
”はじめまして”は省略されて、無言の引力へと形を変える。
つい先日、久しぶりにランチでもと会ったご近所さんの彼は、
相変わらずの長身で、相変わらずハーフかクォーターのような顔をしていた。
遠距離の彼氏の愚痴を言いながらも、
旅行で撮ったらしいツーショットでは確かに幸せそうな顔が見て取れた。
心を許すとはこういう事なのだろう。独り身の僕にはわからない感覚だった。
結局はそれが理解したいがために、僕はその後もあの地下空間へと行くのだろうか。
幸か不幸か、三度目の”はじめまして”を交わす機会は、今のところ来てていない。
※あえて裏話的な話ですが、こういったシチュエーションのピロートークではいくつなの?とかどこ住んでるの?とか鉄板だと思うのですが、それをあえてしていませんね。はじめましてを貫きたかったのか、偶然か、どちらなのでしょうね。